4月は歓迎会など宴会が多い時期で、急性アルコール中毒で搬送されたというニュースを毎年耳にします。最悪の場合死に至ることもある急性アルコール中毒、お酒に強い体質であるか否かは関係ありません。済生会宇都宮病院の救急・集中治療科(ERチーム)の藤井公一先生が、その危険性やお酒を飲むときの注意点を解説します。
アルコールの分解と急性アルコール中毒
お酒に含まれるアルコール(エタノール)は、飲んだ後に消化管より速やかに吸収されます。すると、肝臓内でアルコール脱酸素酵素という酵素の働きによりアセトアルデヒドに分解されます。その後アルデヒド脱水素酵素という酵素が働き酢酸に分解されます。最終的に水と二酸化炭素に分解されて、尿中または呼気中に排泄されます。
アルコールの代謝吸収の速度には個人差があり、特に日本人はアルデヒド脱水素酵素という酵素の活性が弱い、いわゆるお酒に弱い人が多いといわれています。
急性アルコール中毒とは、短時間にアルコールを大量摂取したとき、分解できなかったアルコールが血液を介して脳に達し、脳内の神経細胞を麻痺させる中毒症状です。その症状は吐き気や嘔吐、酩酊(めいてい)、歩行障害など軽いものもあれば、昏睡や呼吸抑制から呼吸停止となり死に至る重度のケースもあります。
軽度~中等度の症状
- 吐き気
- 嘔吐
- 腹痛
- 顔面が紅潮する
- 瞳孔が過度に開く
- 異常に汗が出る
- 多幸感
- 酩酊
- 衝動や感情を抑えられなくなる
- 判断力低下
- 錯乱
重度の症状
・ 昏睡
・ 呼吸抑制
・ 呼吸停止
・ 低体温

疑わしい人を見かけたら
急性アルコール中毒と疑わしい人を見かけたとき、嘔吐したもので窒息する場合があるので、決して一人にして放置してはいけません。具合が悪いときは応急処置として「回復体位」をとらせ、重度と判断した場合は救急車を呼び医療機関を受診させることが必要です。
医療機関での受診後は、多くの場合点滴し、尿がよく出る状態で経過観察します。ただし、輸液量を増やして尿量が増加しても、尿中のエタノール排泄量はほとんど影響を受けないといわれています。また、胃洗浄は効果がないといわれています。4~6時間で回復する場合が多いのですが、重篤であれば入院が必要となります。
お酒を飲むときのポイント
急性アルコール中毒で病院に救急搬送される患者さんの47%が、未成年者を含む20代以下の若年者です(出典:東京消防庁「平成28年 救助活動の現状」)。お酒を飲み慣れていないため、自分の適正量や限界を知らず、つい飲み過ぎてしまうと考えられます。学校や職場の仲間との飲み会で「一気飲み」などをして、急性アルコール中毒に陥り死亡した例もあるため、注意が必要です。
そのほかに、空腹時はアルコールの吸収が早いため、食事しながらお酒を飲んだり牛乳などを事前に飲んだりするとよいかもしれません。
救命救急医からのメッセージ
アルコールに対する強さは人それぞれなので、自分の適正量を知ることが大事です。自分がお酒に弱いと認識した場合、たくさん飲めないことを受け入れ飲む量を控えるようにしましょう。また、お酒に強くてつい飲み過ぎてしまう人も、急性アルコール中毒やアルコール依存症につながることがあるため、注意が必要です。
急性アルコール中毒は、お酒の飲み方に気を付けていれば防げるものです。飲み過ぎ以外にも、一気飲みや強要をすることがないように、節度ある飲酒を心がけてほしいと思います。
解説:藤井 公一
宇都宮病院
救急・集中治療科(ERチーム)主任診療科長代理
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。
※診断・治療を必要とする方は最寄りの医療機関やかかりつけ医にご相談ください。
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