薬の服用で進行を遅らせることはできても、現代の医療では完全に治すことができないといわれる認知症。しかし、ひとくちに認知症といってもいくつも種類があり、早期発見の場合は治せるものもあるんです。治せる認知症とは何か、その治療法を解説します。
認知症には種類がある
認知症には実はいくつもの種類があります。最も多く見られるのが、脳全体が少しずつ委縮する「アルツハイマー型認知症」で、全体の60%を占めます。次いで、脳梗塞や脳出血により脳の一部に障害が生じることで発症する「脳血管性認知症」(20%)、幻視やパーキンソン症状を特徴とする「レビー小体型認知症」(10%)と続きます。
他に、慢性硬膜下血種、栄養障害、脳炎、甲状腺機能低下症といった疾患によって認知症をきたすことがあります。これらは、元の疾患を治療することで治る可能性があるものです。この疾患の一つとして挙げられる「特発性正常圧水頭症」が、現在”治せる認知症”として注目されています。
出典:パンフレット「知って安心認知症」
「特発性正常圧水頭症(iNPH)」とは
頭蓋骨内は脳と脊髄以外に、脳脊髄液(髄液)という液体で満たされています。頭蓋骨内に髄液が通常より多くたまった状態が水頭症です。脳腫瘍やくも膜下出血などが原因で起きるものと原因が明らかでないものがあり、後者を「特発性正常圧水頭症(iNPH)」といいます。
代表的な症状は、認知症、歩行障害、尿失禁です。認知症の症状としては集中力、意欲・自発性が低下し、もの忘れが次第に強くなります。特徴的な症状として、歩幅の狭い小刻みな歩みになる歩行障害が挙げられます。
正常時に比べて脳室に髄液がたまり、拡大している(左画像中央あたりの黒い部分)
8割が手術でよくなる
iNPHは精密検査と手術で治療することができます。まず、CTやMRIなどの画像診断により脳の状態を検査します。その後、腰椎から髄液を30mlほど抜き、髄液の排出によって症状が改善するかどうかを診断するタップテストを行ないます。テスト後は脳の圧迫が緩んで歩行障害が一時的に改善しますが、数日後にまた髄液がたまることで症状が再発します。
治療は、脳室や腰椎にチューブを入れ、たまった髄液を腹腔内に流す手術(シャント術)が一般的です。手術によって大部分の患者さんはよくなります。ただし、寝たきりになるほど状態が悪化していると、残念ながら治療は難しくなります。

タップテスト

脳室-腹腔シャント

腰椎-腹腔シャント
正しく鑑別されず、見逃しが多い現状
脳神経外科医や神経内科医にとってiNPH はなじみのある疾患ですが、他科や専門医以外には十分に認識されておらず、認知症の大勢を占めるアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症などと混同されてしまう現状があります。日本には高齢者の1~2%にあたる30万人以上の患者さんがいると推定されますが、ほかの認知症と正しく鑑別されず、見逃されているケースが少なくありません。
今後は医師会を巻き込んだ啓蒙活動を続けることで、全国の病院で診療に取り組める土壌を作り、的確な治療につなげていく未来を目指していくことが不可欠です。
解説:岡本 右滋
福岡県済生会八幡総合病院
副院長
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