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仰向けになった姿勢で、足首をおさえてもらって上半身を繰り返し起こす腹筋運動。体育の授業や運動クラブの基礎練習などを思い出す人は多いでしょう。今でも健康のためにと毎日続けている人がいるかもしれません。
実はこの腹筋運動、お腹の筋肉である腹直筋を鍛えるためにはあまり効率的な運動とはいえません。それどころか、筋力が足りないと腰が痛くなる可能性がある動きです。
一般的に腹筋といわれている筋肉は腹直筋のことです。一枚の板のような形ではなく、いくつかの腱画(横に走る溝)で区切られた構造をしていて、体幹部を屈曲させるはたらきがあります。
上半身を起こす筋力がない人が、仰向けの状態から無理に腹筋運動をしようとすると、腰が痛くなることがあります。腹筋の筋力が足りていないか、腹筋が使えていないかのどちらか、あるいはその両方が理由として考えられます。
腹筋を効果的に鍛えるためには、上半身を起こす動作は必ずしも必要ではありません。腰痛を予防するためには上半身を”起こさない”腹筋運動がお勧めです。
まず床に仰向けになり、膝を曲げることで腰が反りにくくなります。次に、骨盤を後傾させることで腰椎がしっかりと床につき、それによって腰が反りかえる動きが予防できます。上半身を起こすのではなく、腰を支点にして、胸から上だけ、肩甲骨を床から浮かすようにするのがコツです。また、あごが上がると背筋が伸びやすくなるので、頭を起こしてあごをしっかりと引いた状態を作り、首から腰にかけての背骨全体が一本の弧を描くようにします。その後、上体を床におろしてこれを繰り返します。1セット10回を目安に行ないましょう。
上半身を起こす腹筋運動の動作では、足の付け根にある腸腰筋が積極的に使われます。腸腰筋は股関節前面の深層部に位置する筋肉(インナーマッスル)で、大腰筋と腸骨筋、人によっては小腰筋を加えた3つの筋肉によって成り立っています(図1)。これらの筋肉は股関節を曲げる際に使う筋肉として、走行時に脚を前方に踏み出したり、腹筋運動のように脚を固定した状態から上半身を起こしたりする動作で使われます。また、腸腰筋は腰を安定させるうえでもたいへん重要な役割を果たしています。
腹筋が弱かったり、上手に使えない人は、腸腰筋に力が入るため腰が痛くなります。腸腰筋はウォーキングやランニングなどの日々の活動やウエイトリフティングなどのパワー系の競技とも深い関係があり、腸腰筋の弱体化や硬直は健康にも悪影響をもたらします。
図1:腸腰筋
・大腰筋:腹部の深部に位置して、腰椎の側面から太ももの付け根に伸びる深層筋で股関節の屈曲、外旋(股関節の位置を変えずに、足を体の外側に向かって回転させる動き)のはたらきをする。
・腸骨筋:骨盤の腸骨内面に付着している筋肉で、腸腰筋の中で最も深層にある。股関節の屈曲、外旋のはたらきをする。
・小腰筋:もともと大腰筋からの分束ということもあり、なくても大腰筋さえあれば問題はない。基本的には大腰筋の補助のはたらきをする。小腰筋も持っているのは人口の約40%といわれている。
腸腰筋が弱くなると、その影響が姿勢に現れてくる可能性があります。あごが前に突き出して背中上部が丸まった猫背の状態(スウェイバック姿勢)、本来自然にある背骨のS字カーブが減弱して、背骨がフラットになった状態(フラットバック姿勢)が見られる場合は要注意です。このような姿勢が続くと腰痛の原因にもなります。また、骨盤内にある腸腰筋を鍛えていない人が、無理に腹筋運動をした場合も腰痛を起こすことになります。
他に、腸腰筋が硬いと骨盤に影響を与えたり、腰の可動域が制限されて腰に不快感や痛みを引き起こしたりする可能性があります。
腰の負担を減らすためには、腸腰筋を鍛えるトレーニングが効果的です。
床に仰向けになり、股関節を屈曲させていくことで、自分の両脚の重さを負荷として腸腰筋を鍛えることができます。
股関節を屈曲させた状態を維持することで、筋肉が伸びも縮みもしない状態になり、腸腰筋が鍛えられます。
立った状態で脚を高く上げていき、股関節の屈曲動作を行なうことで腸腰筋を鍛えるトレーニング方法です。
レッグレイズの要領で上げた両脚をトレーニングパートナーに押してもらい、その力に抵抗しながらゆっくりと床に両脚を下ろしていきます。筋肉の繊維が伸びながらも力を発揮する「エキセントリック収縮」を通して、腸腰筋を強化していくトレーニング方法です。
腸腰筋を強化するだけではなく、ストレッチをして緩めることも大切です。股関節屈曲とは逆の動作をしていきます。
お尻の大殿筋(お尻全体を覆う筋肉)を中心に、腰回りや太ももの筋肉などを鍛える筋力トレーニングです。腸腰筋に対してストレッチの動きとなります。
通常はヨガのポーズとして取り入れられているエクササイズです。腰、お尻、腹筋に加えて、太もも、背中などのちょっとした筋力トレーニングとしても効果があり、腸腰筋についてはストレッチ効果があります。
トレーニングは1日に3セットが目安です。体力には個人差があるため、無理をしすぎない程度のトレーニングを心がけましょう。
写真モデル:済生会有田病院・作業療法士 小林世良野
成長期はスポーツのしすぎに要注意
成長期にスポーツをしすぎると、背骨の一部が離れてしまう脊椎分離症を起こすことがあります。脊椎分離症の主な症状は腰痛です。長期間繰り返し背骨に負担がかかることが原因と考えられます。予防にはその人の体力に合わせて運動することが大切で、腰に痛みなどの異常を感じたら整形外科を受診することをお勧めします。
解説:小島 博嗣
済生会有田病院
整形外科部長兼人工関節センター長