2026.03.30

その長引くせき、「風邪」ではないかも? 原因を知り早めのケアを

新生活や新しい年度がスタートするこの時期は、環境の変化による疲れや、春特有の寒暖差から体調を崩しやすいタイミングでもあります。せきがしつこく続くと、本当に風邪のなごりなの?と不安に感じることもあるでしょう。そこで「せき」のメカニズムや原因を分かりやすく解説し、せき喘息など別の病気が関係している可能性や、それぞれの特徴的な症状・注意点などについて、今治病院呼吸器内科の川上真由先生に解説してもらいました。

そもそもせきってなんで出るの?

せきは専門用語では「咳嗽(がいそう)」といい、基本的に気道の中の痰や吸い込んだ異物を外に出すための生体防御反応です。


せきには大きく分けて、三つのタイプがあります。

①食べ物を誤嚥(誤って気管に入ってしまうこと)したときに反射的に出るせき
②刺激がなくても、ストレスが強かったり緊張したりすると出るような心因性のせき
③何らかの刺激でのどがイガイガし、せきが出そうな感覚がして出すせき

このように、せきは反射的に行なわれるものと意識的に行なうものが複雑に関与して発生します。

8週間以上続くせきは要注意

●せきには3種類ある:それぞれの特徴、注意点

せきは、喀痰(かくたん=気道から出る分泌物)の有無や持続期間によって種類分けされます。喀痰を伴わない(痰がからまないか、からんでも少量)せきを「乾性咳嗽」、痰がからみ、それを体外に排出するために生じるせきを「湿性咳嗽」といいます。
また、せきが持続する期間に着目して、3週間以内に治まるせきを「急性咳嗽」、3週間から8週間続くせきを「遷延性咳嗽」、8週間以上続くせきを「慢性咳嗽」と呼んでいます。このように、せきが続いている期間で分けることにより、感染症によるせきかそれ以外の原因によるせきかをある程度推測することができます。

(出典:日本呼吸器学会「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025」)

●思わぬ病気が隠れているかも? せきが出るさまざまな原因

急性咳嗽の原因はさまざまですが、最も多くみられるのはウイルス性の感冒、いわゆる風邪によるものです。遷延性咳嗽においても感染症後に残るせき(感染後咳嗽)が原因のことが多くあります。これは、風邪などの感染症によって気道の粘膜がダメージを受け、炎症が残っているために生じるせきです。一方、慢性咳嗽では感染症が原因である割合は低くなってくるので注意が必要です。
せきが出る、感染症以外の原因について説明します。

肺の構造的な病気
肺の中に異物ができたり、肺の構造が壊れたりすることで外部から刺激を受けてせきをさせる神経が過敏になったり、逆にせきを抑制する神経が破壊されたりします。主なものとして、肺がん慢性閉塞性肺疾患(COPD)間質性肺炎などが挙げられます。

①肺がん 肺がんの患者さんの約6割にせきの症状がみられます。気管・気管支の病変、がん性胸膜炎心膜炎、がん性リンパ管症や縦隔病変による反回神経(声帯を動かす神経)麻痺などが主な原因です。肺がんは喫煙歴のある高齢者に発症することが多く、COPDなどの合併症が複数関与していることがあるため、症状に合わせてさまざまな薬剤を使用します。
②慢性閉塞性肺疾患(COPD) 主にたばこの煙などの有害物質を長期に吸入することが原因で発症します。閉塞性呼吸機能障害(気道が狭まり息を吐き出しにくくなる状態)がみられ、せき、喀痰、労作時の呼吸苦が主な症状です。一番大切なことは「禁煙」で、軽症であればそれで症状が改善します。禁煙していても続くせきや喀痰に関しては、気管支拡張薬の吸入を行ないます。
③間質性肺炎 肺胞(気管支の末端で酸素を取り込む部位)の壁や周囲の組織である「間質」が炎症を起こしたり線維化したりする病気です。通常は喀痰を伴わない乾性咳嗽がみられ、夜間よりも日中に多くせきが出ます。治療には主に鎮咳薬を使用します。


気管支喘息・せき喘息
気管支喘息せき喘息では、気道が攣縮(れんしゅく=筋肉の急激な収縮)することでせきが起こるといわれています。日中より夜間や早朝にせきが悪化することが特徴で、中には特定の季節で症状が悪化する人がいます。風邪などの感染をきっかけに悪化することが多く、風邪が治った後もせきが長引く原因の一つです。
せき喘息は気管支喘息とは異なり喘鳴や呼吸困難を伴わず、症状がせきのみといった特徴があります。放置していると約3割の患者さんで気管支喘息に移行するといわれています。ステロイド薬や気管支拡張薬の吸入で治療します。

アトピー咳嗽
アトピー咳嗽もせき喘息と同じように夜間や早朝のせきの悪化が特徴的で、しばしば区別が難しいです。アレルギー体質の中年女性に多く、のどのイガイガ感やかゆみを伴います。時に気温や湿度、会話、ストレス、受動喫煙、運動でせきが誘発されます。せき喘息と違って気管支拡張薬が効きません。抗ヒスタミン薬(アレルギーの内服薬)で治療します。

副鼻腔気管支症候群(SBS)
副鼻腔炎気管支炎が合併し、慢性的に繰り返す病気です。鼻づまりや鼻汁、喀痰、せきが主な症状です。少量のマクロライド系抗菌薬で治療します。

その他
これまでに挙げた原因以外でも、せきを引き起こす病気はさまざまです。一見、せきとは全く関係ないように思える胃食道逆流症(GERD)や一部の降圧薬でも慢性的なせきを引き起こすことがあります。その場合は、胃酸を抑える薬を開始する、原因となっている降圧薬を中止・変更することでそれぞれ治療します(自己判断での服薬中止はしないでください)。

長引くせきに悩まされたら、受診して精査しましょう

せきが長く続くときは、医療機関を受診して原因を突き止め、適切な治療を早期に開始することが大切です。医療機関では、遷延性咳嗽や慢性咳嗽の患者さんに対して、以下の流れで検査・診断を進めていきます。

(参考:日本呼吸器学会「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025」)

最初に、医療面接、診察、胸部X線検査などを実施し、肺がんや結核、肺炎といった比較的見つけやすく緊急性の高い病気がないかを確認します【ステップ1】。
原因が特定できない場合、次に重要になるのが、せきと一緒に痰が出るかどうかです(喀痰の有無)。これによって、疑われる病気が変わってきます【ステップ2】。
ここまでのステップで決定打が出ない場合、疑われる可能性の高い病気の治療薬を実際に使ってみて、その効果をみながら診断を確定させる「治療的診断」という手法をとります。複数の原因が組み合わさっていることもあり、その場合は同時に治療する必要があります【ステップ3】。
これらの薬剤を使っても改善がみられない場合は、よりまれな病気やさらに専門的な検査が必要な状態であることが考えられます。患者さんからもう一度詳しい話(病歴)を聞き、さらなる検査を行なうか、精密検査と専門医への紹介を検討します。検査をしても原因が見つけられない場合は「難治性咳嗽」と診断し、P2X3受容体拮抗薬(気道神経にあるP2X3受容体の働きを阻害し「せき反射」を抑制する薬)の使用を検討します。【ステップ4】。

せきを長引かせないために

せきの多くは、感染症が原因です。インフルエンザなどのウイルスや細菌が、上気道や下気道に炎症を起こすことで風邪や肺炎となり、せきが出ます。また、喘息やCOPD、間質性肺炎などもともとかかっていた肺の病気が、感染症による気道の炎症により悪化することでせきを引き起こしていると考えられます。そのため、普段から手洗い、マスク装着、加湿、ワクチン接種などの感染予防対策をしっかり行なうことが大切です。
実際にマスク装着が推奨されていた新型コロナウイルス感染症流行時には、呼吸器疾患の悪化は減少していたとの報告もあります。喘息やアレルギー体質の人は、アレルゲンを回避することも重要です。

長引くせきを和らげるためには、薬物療法と並行して、物理的な刺激を最小限に抑える環境調整も不可欠です。

①こまめな水分補給
気道粘膜の乾燥を防ぎ、痰の粘性を下げて排出を助ける効果(去痰の補助)が認められています。
②室内の湿度を50~60%に保つ
気道の過敏性を抑える上で有効です。
③就寝時のせきがひどい場合は上体を少し高くして休む
後鼻漏(鼻水がのどに落ちること)や胃酸の逆流による刺激を軽減できるといわれています。

さらに、冷気やたばこの煙といった物理的・化学的刺激を避けることで、過敏になった気道を保護し、症状の悪化を防ぐことができます。

日ごとに暖かさが増し、春本番の陽気となってきました。一方で、この時期は朝晩の気温差や花粉の影響などで、のどや気管支に負担がかかりやすい季節。年度がわりの忙しさも相まって、体調管理が難しい時期でもあります。単なる一時的な不調と思わずに、なかなか治らないせきがある人は一度医療機関を受診することをお勧めします。新しい季節を健やかに過ごすためにも、早めのケアを心がけましょう。

地域医療

※本コンテンツは、今治病院 院外誌きぼう(2024年11月) 第84号 特集ページ抜粋「長引く咳について」の内容をもとに制作しました

解説:川上真由

解説:川上真由
今治病院
呼吸器内科

※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。
※診断・治療を必要とする方は最寄りの医療機関やかかりつけ医にご相談ください。

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE