済生会は、明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと明治44(1911)年に設立しました。100年以上にわたる活動をふまえ、日本最大の社会福祉法人として全職員約64,000人が40都道府県で医療・保健・福祉活動を展開しています。
済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
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先進国のデータによると、人口の10~15%が耳鳴りを感じていると分かっており、日本人では約1,200万人が耳鳴りに悩んでいる計算になります。※出典:『ついに原因解明!耳鳴りの9割が治る最強療法』(発行/マキノ出版)
耳鳴りは、長い間原因不明の病気とされており、耳鼻咽喉科を受診しても「年を取ると誰でもなるのでうまく付き合っていきましょう」「なるべく気にしないようにしましょう」といわれるだけで、これといった治療法はありませんでした。ところが近年、研究が進み、発生・悪化する仕組みが分かってきました。研究が進んだことで、新たな治療法が開発され、耳鳴りの9割以上は改善するようになりました。また、耳鳴りに不安を感じている患者さんも多いですが、将来、致命的な疾患になることはほとんどないので、安心してください。
耳鳴りが起こるのは、人間が音を聞く仕組みと密接に関係しています。
人間が音を聞くとき、まず音が耳の穴を通って鼓膜に伝わります。鼓膜が音によって振動し、その振動が耳小骨によって増幅され、さらに耳の奥に伝わっていきます。そこには、蝸牛(かぎゅう)という音を電気信号に変える器官があり、届いた振動が電気信号に変えられ、脳に伝わることで音として認識される仕組みです。
耳鳴りを起こす患者さんのうち、9割以上に難聴があると分かっています。難聴とは音が聞こえづらくなることなので、耳鳴りの患者さんの多くは音を聞く仕組みに異常があるといえます。異常がある部位は蝸牛のことが多いです。人によって聞こえにくい音は違いますが、加齢によって起こる難聴で多いのは、高音域が聞こえにくくなることです。蝸牛の中には低音域、中音域、高音域などを担当している部位があり、その担当部位に異常があると電気信号に変える機能が弱くなり、脳が音を認識しづらくなります。
聞こえにくい音があると、脳に変化が起こります。脳は電気信号が少なくなったことを感知し、聞こえないことを補うために過度に反応し、電気信号を増幅させます。この反応は音が鳴っていないときにも起こり、「音が鳴っている」と勘違いしてしまうのです。このように、耳鳴りは聞こえなくなった状態を補おうとする脳の反応なのです。
耳鳴りは、脳の反応によって起こります。つまり、改善するのも悪化させるのも脳の使い方次第です。悪化する仕組みを理解することが治療の第一歩になります。
耳鳴りは実際の音ではなく、脳の過剰な反応です。しかし、人間は「自分にとって必要な音を聞いてしまう」という機能を持っています。騒がしい場所でも、自分の名前が呼ばれるなど、自分にとって必要な音は選択して聞くことができるのです。それと同じで、聞こうとすると耳鳴りは強く聞こえてしまいます。耳鳴りがあるから意識して聞いてしまい、意識するから耳鳴りが大きく聞こえるという悪循環に陥ってしまいます。気にしないためにも、耳鳴りの仕組みをしっかりと理解して、危ないものではないということを理解してください。
ストレスを感じたり、漠然とした不安を感じたときに耳鳴りが悪化します。患者さんに質問すると、「疲れていたり、ストレスを感じたときに一番耳鳴りが強くなります」とおっしゃる方が多いです。また、うつ病があるなど精神的に落ち込んでいる場合も耳鳴りを強く感じやすいので、その場合には、精神的な不安を取り除くために精神科や心療内科の医師に相談してみてください。
耳鳴りの治療として近年注目を集めているのが補聴器を使ったリハビリです。耳鳴りの原因は難聴のことがほとんどなので、補聴器を使用することは理にかなっています。補聴器リハビリでは、難聴で聞こえにくくなっている音を、補聴器を使って脳に届けます。十分な音量でないと効果は上がりません。また脳を変える治療なので、補聴器を一日中つけることが必要です。この状態を一定期間続けると、元の聞こえていた状態に脳が近づいていき、過剰に反応していた状態が落ち着き、耳鳴りが改善するのです(耳鳴りが消失するわけではありません)。補聴器リハビリを行なうと、つけた瞬間から「耳鳴りが軽くなった」という患者さんもいらっしゃいます。なにより、今まで聞こえていなかった音が聞こえるようになるので、患者さんの生活の質が改善されます。特に、「耳鳴りがあるから会話や日常の音が聞こえない」という患者さんは、実は耳鳴り自体よりも難聴で生活に困っている場合が多いので、補聴器リハビリを試してほしいと思います。
前述のとおり、近年は耳鳴りの研究が進み、効果的な治療法が全国各地で行なわれつつあります。しかし、この治療法を受けることができる病院はいまだに少ないのが現状です。現在でも「耳鳴りは治らないので、慣れるしかない」という医師は多くいます。しかし、熱心に取り組み始めている医師もいます。補聴器を扱うメーカーのホームページで耳鳴りの診療を行なっている病院を調べることもできるので、身近なところに対応してくれる病院があるかどうか調べてみてください。
解説:新田 清一
栃木県済生会宇都宮病院
耳鼻咽喉科主任診療科長・聴覚センター長