冬場に多いと言われる心筋梗塞。しかし、気温の高まる夏は、20〜30代の患者さんが増える傾向にあるのをご存知ですか?心疾患は、一分一秒の差が命に関わる深刻な病気です。済生会横浜市東部病院の伊藤良明先生に、気を付けるべきポイントをアドバイスしていただきました。
季節で異なる心筋梗塞のメカニズム
心筋梗塞とは、動脈硬化などが原因で心臓の血管(冠動脈)が完全に塞がり、血流が途絶える状態です。胸痛の他に、冷や汗を伴う腹、肩、背中、のど、歯などの痛みや、めまいなどの症状が現れることもあります。
心筋梗塞を発症しやすいのは主に冬場です。気温が低くなると、私たちの身体は熱が外に逃げないように血管を収縮させます。血管の断面積は小さくなり、血液の通り道が狭くなるので、循環を維持するためにより大きな力が必要になります。そのため血圧が上昇し、動脈硬化がある部位ではストレスがかかり、最終的には動脈硬化の一部が破れてしまいます。すると、その部位に血栓が形成されて血管を閉塞することとなり、急性心筋梗塞が起きてしまいます。
一方、暑い季節の心筋梗塞は脱水を理由に起こりやすくなります。血液は血漿(けっしょう=水、電解質、アルブミンなど)と血球成分(赤血球、血小板、白血球など)でできています。血漿成分の大半は水で、その中に血球成分が浮かんでいます。脱水で血液中の水分が減ると血球の割合が高くなり、血液が濃く、ドロドロになります。こうして血栓ができやすくなるのです。
治療法
心筋梗塞の治療は、血栓を薬で溶解させたり、バルーンで閉塞した血管を広げてステントという細い管を留置したりする方法が主流です。心室細動などの不整脈や心不全による突然死を防ぐ目的で早期治療が求められ、そのリミットは発症後6時間から12時間といわれますが、実際は3時間が勝負です。治療を行なうのが早ければ早いほど救命率は高くなります。しかし、治療を行える病院は限られているため、胸痛が持続する場合、119番通報をして医療機関を受診しましょう。
心筋梗塞のリスク因子
次のリスク因子を持つ人は心筋梗塞に要注意です。
なかでも糖尿病は最重要リスクの一つで、微小血管から大血管まで動脈硬化を促進させてさまざまな合併症を起こすことが知られています。
暑い季節の心筋梗塞の予防には、水分をこまめに摂って脱水にならないようにする必要がありますが、心筋梗塞(動脈硬化)のリスク因子を持っている人は冠動脈の状態を確認することが大切です。
夏場は若い人も注意が必要
過去10年間の傾向として心筋梗塞を起こす患者さんは若年化し、特に暑い季節は30〜40代の心筋梗塞患者が搬送されることもあります。興味深いのは、若年の患者さんでは、心筋梗塞の重要なリスク因子である動脈硬化があまり進行していなくても、血栓ができて発症するケースが比較的多くみられることです。
心筋梗塞は動脈硬化でできた粥腫(じゅくしゅ=コレステロールなどが沈着してできた塊)が崩壊し、冠動脈を詰まらせて起こります。最近、光断層撮影法(OCT)という検査で冠動脈が少しだけ傷ついた状態(びらん)から血栓ができて、心筋梗塞に発展するケースがあることがわかってきました。暑い季節は脱水が血栓の生成を加速させると考えられます。熱中症の予防も兼ねて水分をこまめに摂取すると、血液がドロドロになりにくくなります。
検査で発症を防ぐ
心筋梗塞を発症した人の中には、ふさがった血管が一時的に再開通して症状が消失する場合や、高齢者や糖尿病がある方だと痛みがないため症状に気づかない場合もあります。こうしたケースでは、発見が遅れて重症化する可能性があります。
そのため、60歳の男性、閉経後(特に65歳以上)の女性、心筋梗塞を発症した家族がいる人、リスク因子を複数持っている人は、自覚症状がなくても動脈硬化の検査を受けることを勧めます。
これまで冠動脈の動脈硬化を調べる検査は、足の血管から心臓までカテーテルを進める「心臓カテーテル検査」が主流でしたが、近年は手首から細いカテーテルを挿入する検査を行なう病院や、日帰りで検査できる病院が増えました。
最近普及し始めた「心臓CT検査」は患者さんの身体への負担が少なく、造影剤の注射だけで冠動脈の評価が可能です。この検査のメリットとデメリットは次のとおりです。
心臓カテーテル検査と同様に、造影剤の副作用や放射線被ばくの可能性もありますが、問題になることはほぼありません。そのため、心臓CT検査は外来などで施行される機会が急増しています。ただし、造影剤アレルギーがある人や腎機能が悪い人、喘息を持っている人などは検査できない場合があります。心配であれば専門医に相談しましょう。
解説:伊藤 良明
済生会横浜市東部病院
心臓血管センター長兼インターベンションセンター長
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