済生会は、明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと明治44(1911)年に設立しました。100年以上にわたる活動をふまえ、日本最大の社会福祉法人として全職員約64,000人が40都道府県で医療・保健・福祉活動を展開しています。
済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
主な症状やからだの部位・特徴、キーワード、病名から病気を調べることができます。症状ごとにその原因やメカニズム、関連する病気などを紹介し、それぞれの病気について早期発見のポイント、予防の基礎知識などを専門医が解説します。
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男性の更年期障害は、加齢やストレスに伴う男性ホルモン(テストステロン)の減少によって引き起こされ、医学的には「LOH(ロー)症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)」と呼ばれます。一般的に40代から徐々に増えてくるといわれています。
症状はさまざまで、気分が沈むなどの精神症状、ほてりや動悸といった身体症状、性欲減退などの性機能症状がみられます。
<難しい「うつ病」との見極め>
不眠や疲労感、気分の落ち込みなどの症状がみられる場合、男性の更年期障害(LOH症候群)なのかうつ病なのか、見極めが難しいです。重度のうつ病であれば判断が可能ですが、症状が軽ければ両者の区別は容易ではありません。うつ症状が比較的軽度で、患者さんが病気の鑑別を希望すれば、男性の更年期障害(LOH症候群)として診断を行なうことはあります。しかし、希死念慮(きしねんりょ=死にたいと思うこと)などがある場合にはすぐに精神科専門医へ受診することが大切です。
女性の更年期障害は、閉経を境に急激に女性ホルモンが減少することで症状が現れます。女性の更年期障害は比較的認識されやすく、診断や治療が確立しています。
一方、男性の場合は、男性ホルモンの減少が20代から始まり、徐々に進行していきます。そのため加齢による身体機能の衰えなのか更年期障害(LOH症候群)なのか区別がつきづらいといえます。日本で男性の更年期障害(LOH症候群)の研究が開始されてからまだ20年程度しか経っておらず、その全貌は明らかになっていません。
男性の更年期障害(LOH症候群)の治療は、男性ホルモン製剤を投与する「ホルモン補充療法」が中心となります。
小樽病院の場合、「テストステロンエナント酸エステル製剤」を1回125mgもしくは250mgを、2~4週ごとに筋肉注射で投与します。定期的に採血をして肝機能障害や多血症などの副作用の有無を調べながら、患者さんの意向を確認して治療を継続していきます。副作用がなければ合計10回投与し、治療の効果を判断します。
小樽病院では、40歳以上の男性で、総テストステロン値の低下がみられ、遊離テストステロン値が7.5pg/mL未満の患者さんを中心に上記の治療を行なっています。
ただ、前立腺がん、男性乳がん、多血症、重度の肝機能障害、重度の腎機能障害、うっ血性心不全、重度の高血圧、睡眠時無呼吸症候群がある場合、ホルモン補充療法は実施しません。
1回の投与で劇的効果、患者さんによっては変化が現れないことも
男性の更年期障害(LOH症候群)の患者さんの中には、ホルモン補充療法で男性ホルモン製剤を1回投与しただけで劇的に改善がみられるケースも少なくありません。治療前は外来でうつむき加減だった患者さんが、治療によって見違えるほど活気に満ちた様子になります。
一方で、ホルモン補充療法を行なっても特に変化が現れない患者さんもいます。治療の効果をしっかりと見極めることが大切になります。
患者さんの中にはホルモン補充療法で
劇的に改善がみられる人も
睡眠時無呼吸症候群などのためホルモン補充療法ができない患者さんには、漢方製剤(漢方薬)を投与することがあります。加味逍遙散(かみしょうようさん)、八味地黄丸(はちみじおうがん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)などの漢方製剤を服用することで、症状が改善する場合があります。
小樽病院の「性機能専門外来」を受診する患者さんは、大きく2つのタイプに分かれます。
1つは、性欲の低下や勃起障害などの症状があり、自分で外来予約をして受診するタイプ。もう1つは、不定愁訴が多いというかかりつけ医からの紹介で受診するタイプです。
インターネットなどを通じて自分の症状が男性の更年期障害(LOH症候群)らしいということは分かっても、どこで相談すればよいか困っている患者さんもいると思われます。小樽病院のように性機能専門外来が近くにない場合、どこで受診するとよいでしょうか?
男性の更年期障害(LOH症候群)の診療は、主として泌尿器科で行なわれることが多いです。それ以外では内科や心療内科、精神科、整形外科などでも診療しているところはあるようです。性機能に関連した症状が中心の場合は泌尿器科、身体症状が中心であれば内科、精神症状が中心であれば心療内科や精神科を受診するとよいでしょう。
男性の更年期障害(LOH症候群)かどうかを調べるためのセルフチェックシートとして、「Aging Male’s Symptoms score(AMSスコア)」があります。性機能に関連する質問が5項目、身体機能関連が7項目、心理関連が5項目の計17項目からなります。
5段階評価で、「なし」1点、「軽い」2点、「中等度」3点、「重い」4点、「非常に重い」5点。
27~36点が軽度、37~49点が中等度、50点以上が重度と判定します。
なし (1点) |
軽い (2点) |
中等度 (3点) |
重い (4点) |
非常に重い (5点) |
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1 | 総合的に調子が思わしくない | |||||
2 | 関節や筋肉の痛みがある | |||||
3 | ひどい発汗がある | |||||
4 | 睡眠の悩みがある | |||||
5 | よく眠くなる | |||||
6 | いらいらする | |||||
7 | 神経質になった | |||||
8 | 不安感がある | |||||
9 | 体の疲労や行動力の減退がある | |||||
10 | 筋力の低下がある | |||||
11 | 憂うつな気分だ | |||||
12 | 「絶頂期は過ぎた」と感じる | |||||
13 | 力尽きた、どん底にいると感じる | |||||
14 | ひげの伸びが遅くなった | |||||
15 | 性的能力の低下がある | |||||
16 | 早朝勃起(朝立ち)の回数の減少 | |||||
17 | 性欲の低下がある |
男性の更年期障害(LOH症候群)は、加齢やストレスによる男性ホルモン(テストステロン)の減少によるものであるため、防ぐのは難しいのが実情です。
しかし、生活の中の少しの工夫で、テストステロンの維持が期待できます。それは、栄養バランスに十分配慮した食事を心がけ、気分転換や疲労回復ができるよう十分な睡眠・休養によってストレスをためず、適度な運動を行なって適性体重をキープすることです。
栄養バランスに十分
配慮した食事をする
十分な睡眠・休養で
ストレスをため込まない
適度な運動によって
適性体重を維持する
逆に上記のような対策を行なわれなければ、テストステロンが減少する可能性が高くなるといえます。また、喫煙を避けることも望ましいです。
規則正しい生活を行なって、ストレスから身を守り、健康な身体と精神を維持していきましょう。
解説:堀田 浩貴
小樽病院
副院⾧ 泌尿器科
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。